今、高輪がおもしろい。
今の高輪を歩けば、東京の「過去」「更新」「未来」が、全部見える。
時の蓄積が、都市の歴史を作ることを感じられる。
ギリギリ外出できた先週、春の高輪を歩いてきました。
こんなご時世、ちょっぴりリラックス。まちあるき気分を楽しんでいただければ幸いです。
1 高輪消防署 二本榎出張所に潜入!
高輪で見つけた、東京の「過去」。
かつての高輪はお江戸の玄関口。そして、邸宅が立ち並ぶまちでした。
高輪の高台に建つ高輪消防署庁舎は、1933年落成。約90年間、高輪のまちの変化を見つめてきました。
現役ですが、帝都復興時代を感じる、まるく美しいデザイン。
受付すると、中も見学できます!
円形講堂に、まるい窓に、しっとりとした階段のカーブ。
この消防署は、地形で見ると東京湾へ降りる崖の上にあります。(ピンクの〇のところ)
(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を加工
消防署ができたころ、きっと周囲に高い建物も少なく、東京湾を一望できたでしょう。
今は、多くの建物と埋め立て地に阻まれて、海は遠いむこう…
さあ、崖を降りて、線路へ向かいましょう。
2 高輪橋架道橋
高輪で見つけた、東京の「更新」。
高輪ゲートウェイ駅の開業で世間がにぎわう中、ひっそり姿を変えるトンネルがあるのをご存知ですか?
高輪橋架道橋。都営浅草線泉岳寺駅のそばです。
車両の高さ制限1.5m。全長200m以上。
身長154㎝の筆者でも、すれすれの低さ。
頭上すれすれを山手線と京浜東北線が走っていました。大迫力…。
そんな風景も、高輪ゲートウェイ駅開業に伴う線路切り替え工事で2019年秋に消えています…。現在の地図と、少し前の地図を比べてみると、線路が切り替わっているのがよくわかりますね。
(ピンク色の線→高輪架道橋。
緑色の丸→上の写真の場所。)
線路切り替え前
(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を加工
現在の地図
(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を加工
ここは、明治時代の開業当時から鉄道が通っていた場所。今の様子からは全く想像できませんが、当時の鉄道は海上に築堤して走っていました。(赤矢印が鉄道)
このあたり、陸上では鉄道用地を取得できなかったもよう…。
文明開化期の地図。(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を加工
次第に海の埋め立てが進む中で、「車町河岸」と海をつなぐ水路(今の架動橋の場所)ができ、線路をまたぎます。海からの荷物を内陸部へ運んでいたのでしょうか。
関東大震災直前の地図。(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を加工。線路も増えてきた。
その後、水路は道路へ姿を変えましたが、道路は水底より掘り下げられることなく、低いトンネルができたようです。
壁からは水が染み出し、ひんやりした空気。
オレンジ色の照明が、異世界感を醸し出します。
たまにやってくる車は、超低空飛行のモンスターのよう。
なが~いトンネルを歩くと、不思議なダンジョンに迷い込んだみたいな気分になります。
でも、低く、はばびろく、なが~い架動橋の風景も2020年の4月で見納め。
高輪ゲートウェイ駅周辺の開発事業のため、高輪橋架道橋は車両通行止めとなります。新たに、十分な高さと広さを取ったトンネルができるんだとか…。便利になるのは嬉しいけれど、小さな東京名所がひとつ消えていく。。
と、ここで自分の水路センサーが反応!
高輪橋架道橋、泉岳寺側の入口脇。なんだか異臭が…
覗いてみると…
ぬ!?
なんと、水辺を発見!
架道橋の方向へ、水路が伸びています。海と河岸をつないでいた水路の名残り!?
この水路も、開発で消えてしまうのかな。
水路の奥には、高輪ゲートウェイ駅の折り紙の屋根が見えました。
目の前には、昨年秋にぶった切られた線路の向こう、開発工事のクレーンでしょうか。
遠くに、切り替えられた山手線と京浜東北線が走ります。
高輪の新旧が同時に見られるのは、今だけ。
これから、最先端の美しいまちが出来ていくのでしょう。
高輪橋架道橋は、破壊と更新を繰り返す東京を象徴する場所でした。
3 高輪ゲートウェイ駅
高輪で見つけた、東京の「未来」。
2020年3月14日に暫定開業した、高輪ゲートウェイ駅です。
明朝体も悪くない
周辺にはまだ何もありません。
2024年までに複数の高層ビル、商業施設が完成するなんて、ほんとうなんでしょうか。
2027年には、リニア新幹線が品川駅を起点に開業。羽田空港にも近い立地です。
お江戸の玄関口だった高輪は、大都市どうしをつなぎ、世界ともつながる日本のゲートウェイになる。
意外とすぐじゃん…また、東京が大きく変わります。
リニアなんて、子どものころは遠い未来の夢だったのに。あっという間に時は流れて、すぐそこまで未来がやってきている。
刻一刻と変化するまち、年を重ねる自分。
「今」は「今」しかない。
未来にワクワクする一方で、失われていくもの、今の尊さに胸がつまります。
来年廃止される「踊り子」の車両と、高輪ゲートウェイ駅。今しか見られない、またひとつ、失われる風景。
おっといけない、しんみりとしてしまった。
いつまでも過去にしがみついても、進歩できないからね。アップデートは、明るい未来をつくるため。
変わらないもの。失われるもの。新しいもの。
すべてまちの歴史として蓄積し、物語になっていきます。
4 高輪で見つけた「過去」「更新」「未来」
2024年、再び高輪を訪れ、未来が現実になっていることを、この目で確かめたいな。
高輪消防署には、大変貌をとげた街を、90年前と変わらずに見つめていてほしい。
架道橋は、歩きやすく、車もスムーズに通れるようになっているんだろう。
東京オリンピック、大盛況で終わっているよね。
…33歳の私は何をしているんだろう。
きっと、大丈夫。今を積み重ねて、明るい未来をつくろう。
日常の「あたりまえ」がゆらぐご時世。
高輪のまちが教えてくれたのは、過去を愛おしむ温かさと、今の尊さと、未来を信じる強さでした。