蓄積ヒストリー

内向型女子32歳。東京で、もがいて痛みながら作り出す、余白のある人生。

東京・目黒川支流の暗渠を歩き尽くせ!vol.1―巨人の足跡、美しき谷、暗渠からのメッセージ―

 

「あなた最近疲れ気味。暗渠へ行きなさい」

 

天から声が降ってきました。
そういえば、日常に追われて暗渠に全然行けてなかった……

私は暗渠を歩くと、心にエネルギーが満ち溢れます。2月と3月は、仕事や婚活よりも、暗渠と向き合おうと決めました。笑
今回は、今まであまり歩いてこなかった、目黒川支流がターゲット。
 

題して、

「目黒川支流の暗渠を歩きつくせ!大作戦」

 

手始めに「だいだらぼっち川」「森厳寺川」「北沢川」に行ってまいりました。
世田谷に刻まれた巨人の足跡と美しき谷。
今はなき川が伝えるメッセージ。
一緒に堪能しませんか?

 

 

1 3つの暗渠はどこにある?

まずは場所を確認。下北沢駅をはさむように、2本の河川が流れ、北沢川に注ぎます。

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(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を加工

森厳寺川は、目黒川支流の北沢川の支流。
だいだらぼっち川は森厳寺川の支流。目黒川のかなり上流部です。

 

140年前の地図。
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(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」をキャプチャ

このあたりは田畑が広がる長閑な農村だったことが想像できますね。

 

そして地形を確認。
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(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を一部加工

地形はしっかり川の存在を主張している……

 

2 世田谷区代田の由来!?だいだらぼっちの足跡を探して

だいだらぼっちって知っていますか?
日本各地に昔話が伝えられている巨人。
だいだらぼっちの足跡がくぼ地や池になったという伝説が、たくさんあるそうです。

 
目黒川の支流について調べていると、めちゃくちゃ気になる情報が!
世田谷区代田の由来は、このあたりのくぼ地に「だいだらぼっち」伝説が残っているから。
しかも、くぼ地周辺から、「だいだらぼっち川」が流れていた!

こ、これは……見に行くしかない……
世田谷に刻まれただいだらぼっちの足跡を探せ!!

京王線代田橋駅から徒歩5分ほど。だいだらぼっち川の最上流部周辺にやってきました。

環七、少しくぼんでる!?

 
場所はここ

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(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を一部加工

 

環七の微妙なくぼみ
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地形、確かにくぼんでいるが…

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(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を一部加工

このくぼみ、足跡……なのか……? 

 

さあ、ここで想像力を発揮。頭の中で道路のコンクリートをはぎ取ります。 うん。みえたぞ。田畑の中にある、ぼこ、ぼこ。だいだらぼっちの足跡だ!きっとここに、水が溜まって昔の人はちょっと困っていたんだろうな。

地形って、東京の裸だと思うんです。
現在の東京は、建物や道路でおおわれて、ちょっとしたくぼ地なんて、意識にのぼりません。
でも、人間は地形までは改変できません。体中のセンサーを敏感に立てて、地形を感じ取れば、ありのままの東京が、140年前の東京が見えてくる。

無機質な都会にも、巨人伝説が、確かに息づいているのです。

 

3 だいだらぼっち川がつくった谷

環七から脇に入ると、だいだらぼっち川が刻む谷の始まり。だいだらぼっち川の底を歩きます。当然ながら、川底は谷。


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両岸の美しき高低差よ。。
普通に歩いていたら、ここが谷だと気がつかないでしょう。でも、高低差は、確かに川が流れていたと主張しています。

10分ほど歩くと、京王井の頭線の踏切が見えてきました。だいだらぼっち川、線路、こえまーす!

 

4 だいだらぼっち川、まさかの開渠!?

今回の暗渠旅でいちばんの大興奮ポイント!!!
踏切脇、あやしい茂みに暗渠センサーが反応!なんか、川の生き残りっぽいぞ……

 

場所はここ。 

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(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を一部加工


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あやしい…

 

ん!?川らしきものが見える。。まさかね~

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踏切を渡って反対側へ行ってみると……
まさかの水音。え、うそ


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!?

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開渠あった~~~~!!!!!!
ながれてる~~~~!!!!!!
だいだらぼっち川生きてた~~!!!!!

 

ひとりで絶叫。笑
たまにこういう発見があるから、暗渠めぐりはアツイ…!

ほら、都市化で埋もれた川が、一生懸命、存在を主張しています。
私は、だいだらぼっち川に語りかけざるを得ませんでした。
「こんなきれいな谷を作ってくれてありがとう。」
「農村だった時代から、ずっとこの地域を見てきたんだよね。」
「ここ140年で急に環境が変わってびっくりしたよね。でも、生きててくれたんだ。嬉しいよ。」

 

…はい、完全に変態だね。
でも、消えた川がこの土地で紡いできた物語に、リスペクトの気持ちが湧いてくるのです。

その後、だいだらぼっち川は東の方向へ流れていきます。今は住宅街の中のただの道。
小田急線を越えると、若干暗渠らしさが復帰。森厳寺川との合流地点へ向かいます。


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東京の暗渠の岸辺にはこのレンガ壁が多い気がする…

 

5 森厳寺川を上流からたどる

下北沢駅から一駅小田急線に乗り、東北沢駅へ移動。今度は森厳寺川攻め、開始です!

 最上流部は、東北沢駅から歩いて15分弱の北沢中学校のあたり。川跡ゆえ放置されてきた感ただよう道に興奮。

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かと思えば遊歩道的な感じになったり…f:id:newgnmn:20200227120622j:image

突然未舗装になったり…

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 岸辺の崖は相変わらず美しく。

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 古地図で調べてみると、このあたり、約35年ほど前まではとぎれとぎれ開渠があったようです。

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(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を一部加工

 
比較的最近まで水辺が残っていたせいでしょうか。森厳寺川の暗渠は、だいだらぼっち川よりも、住宅街の中で「異質感」を醸し出しています。

「人間は我が物顔で都市を広げたけどね、昔は自然がたくさんあって、生きものもいっぱいいたんだぞ。忘れないでくれよな。」
 

私たちは、東京の今の姿しかしか知りません。
当たり前のように、宅地化され、道が整備され、自由な生活を享受している。

都市は、人間が豊かに、便利に生きるための場所です。

もし、東京が140年前のままの姿だったら……現代日本の首都として、その機能を発揮することはできないでしょう。

けれど、時代が流れ、発展する中で失われたもの。自然を愛する心の余裕。みどりや生きものたちの営み。

「ちょっと立ち止まって。考え直す時期ではないですか?」

「異質感」の正体は、東京の変遷を目の当たりにしてきた、暗渠からのメッセージかもしれません。

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マンホールから響き渡る下水道の音。森厳寺川の在りし日の姿を彷彿とさせる…

 

6     北沢川緑道に思う―今は下水の再生水が流れて―

森厳寺川は、下北沢駅周辺で小田急線に阻まれて途切れてしまいます。
が、我が暗渠センサーあなどることなかれ。
線路の向こうに駐輪場として暗渠道が続いているのを発見しました。

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続いて、京王井の頭線を越えるところ。最近まで水辺あった感がはんぱない。忘れられた空間に、土地の歴史物語が宿る…

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 場所はここ。

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(一財)日本地図センターが作成した「東京時層地図」を一部加工

 

その後はわかりやすい暗渠道が続きます。
代沢小学校横で目黒川支流の北沢川に合流。

北沢川は、昭和40年代に下水道幹線として暗渠化されました。今は地上部が緑道となっています。
緑道の上を流れるせせらぎは、落合水再生センターで処理された下水の再生水。


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かつて農村を流れ、自然豊かだったほんものの川は、都市化の過程で生活排水で汚れてしまいました。川を下水道幹線に転用するのは、当然の時代の流れ。下水道ができなかったら、衛生面で大変なことになっているはず。

だけど、やっぱり水辺やみどりのない生活は潤いがなくて。
川だった場所に、今は人工のせせらぎが流れる。
人間の都合で姿を変えた川に、都市化の矛盾を突き付けられたような気持ちになり…
一方で、破壊と建設を繰り返す東京で、便利な生活をして、大量消費して、毎日生きている自分もいて… 

都市の快適さと、水辺、みどり。
これからは両立の時代。価値観を変換し、都市と自然を両立するにはどうすればいいのだろう。
幸い、今の私はその答えを考える仕事をしています。暗渠からの宿題を、自分なりに考え、実現していきたい。思いを新たにしました。

 

暗渠は、都市の中に埋もれた「見えない存在」。
これからも、見えないものに目を注ぎ、メッセージを掬い上げていきたいな。

 

う~ん、やっぱり、暗渠に行くと心が元気になるし、仕事のやる気も出るな。
もはや暗渠道でモバイルワークすべきかもしれない。
ありがとう、だいだらぼっち川、森厳寺川、北沢川。

 

次回、「目黒川支流の暗渠を歩きつくせ大作戦」、
羅漢寺川と目黒競馬場跡を辿る!
お楽しみに!?

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